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【総合診療だより24号】 11月のコアレクチャーの報告 ~「総合診療だより」では総合診療プログラム専攻医等による活動を報告します~
2022年12月07日 研修医・専攻医・医学生
11月の総合診療コアレクチャーは総合診療プログラム専攻医1年目(卒後3年目)の加藤歩医師が「患者中心の医療」のレクチャーを行いました。
日雇いのトラック運転手で認知症の母がいる60代男性が心不全で入院しました。心不全の原因として狭心症の関与があり、外科手術が選択される状況でした。合併症として糖尿病があります。
以前より手術を推奨されていましたが、同意を得ることはできませんでした。数年前から医療機関にも受診されず、糖尿病に対する食事療法も拒まれる状況で、非常に複雑な事例に対して「患者中心の医療」の枠組みを解説しながら、この患者が手術を希望しない理由を掘り下げました。
まずはBPS(Bio-Psyco-Social、生物心理社会)モデルで背景を整理し、Patient-centered clinical method(PCCM、患者中心の医療の方法)を用いて意思決定支援をしていく様子を提示しました。
もともと本人の価値観・健康観(Health)として人生の目標がなかったようですが、LEARNアプローチやナラティブ・アプローチという手法を用いつつ、繰り返しの対話を通じ、「認知症の母親を看取りたい、少なくとも5年は生きたい」とういう目標をたて、生命予後改善に向けて外科手術(バイパス術)を行う選択をしました。本人の懸念点であった、入院で治療を行うと収入減で生活が厳しくなる、家族に迷惑をかけたくないという点に対して、社会資源の調整を行い、共通の理解基盤にのっとり治療方針を決定していきました。
どの程度医療者が選択肢に重みづけを行うか、周囲の状況も加味しつつShared-decision-making(患者と医療者による意思決定の共有)を行っていくなど、その後のディスカッションでも患者中心の医療とは何なのか議論が深まりました。
当院の総合診療プログラムでは総合診療のコアコンピテンシーを中心に勉強会を行いつつ、初期研修医や当院以外のプログラム専攻医も共に学び合っています。
LEARNアプローチ
L Listen with sympathy and understanding to the patient’s perception of the problem(患者の認識を傾聴する)
E Explain your perceptions of the problem(医師側の認識を説明する)
A Acknowledge and discuss the differences and similarities(共通点と相違点を話し合う)
R Recommend treatment(方針を勧める)
N Negotiate agreement(実践できる妥協点を見出す)