丹波市にとって21世紀前半最大のプロジェクトだ。この統合新病院メディカルコンプレックス(複合医療施設)は単なる医療拠点にとどまらず地方創生のシンボルであり、オープンをきっかけに一気呵成(かせい)にまちづくりを進めていく。医師不足による医療危機を乗り越え、これまで医師の確保に努めてこられた秋田院長のご尽力に心より感謝を申し上げたい。市民一人一人が病院の経営に関心を持ってもり立ててほしいし、丹波市としても存続のために一丸となって協力する。
丹波医療センターは地方都市にある病院の一つではなく、若い医師が集まってくるオンリーワンの病院を目指している。丹波市のミルネとの連携もまさにそうした仕掛けの一つだ。新病院の雇用は580人になる。このビッグプロジェクトを呼び水に医療、健康、介護をまちづくりの活性化につなげていきたい。
当地には急性期医療を担う県立柏原病院と、主に回復期、在宅医療や健診などを担当する柏原赤十字病院があった。2004年の新医師臨床研修制度の導入以降、両病院とも研修医が集まらなくなり、医師数が激減した。柏原病院では48人(02年)から20人(06年)に、赤十字病院では16人(02年)から4人(05年)に減り、受け入れる患者も減少して病院存続の危機に直面した。
県立病院と関わりの深い神戸大が地域医療の存続のために12年に出した結論が、両病院の統合だった。たまたま役割分担ができていたこと、それぞれで患者を奪い合うのは効率が悪いという議論もあり話が進んでいった。
07年には市民による「県立柏原病院の小児科を守る会」が発足し、疲弊した医師をサポートする取り組みとして全国的にも注目を集めた。また、08年には医師、歯科医師、看護師、薬剤師、市民の有志が集まって地域の病院をもり立てる「丹波医療再生ネットワーク」ができ、市民向けの医療・健康講座が定期開催され、地域の病院にかかりましょうという「地病地療」という言葉も生まれた。医療危機克服のために市民の果たした役割が統合の後押しになった。
「たんば医療支え隊」の皆さんには、毎週木曜日に「差し入れ定期便」として今年3月まで計488回、夜食のお弁当を届けてもらった。あらためて感謝申し上げたい。
大きな課題は三つある。まず「高齢化と人口減少」だ。40年以降、病院全体の患者数も確実に減少していく。また、高齢者は多臓器の病気、また認知機能低下やフレイル(加齢に伴う、筋力など諸機能の低下)など多くの健康問題を抱えており、現状の臓器別診療体制では対応ができない。二つめは「医師が少ない」ことだ。医師の数は回復傾向にあるが、県の人口10万人当たりの平均医師数242・4人に対し、丹波医療圏(丹波市、丹波篠山市)は189・3人とまだ少ない。医師にとって魅力のある地域にしていく必要がある。三つめは「救急医療体制の不備」だ。17年における丹波医療圏外への患者流出率が33%で県の10医療圏で最も高い。医療危機の後遺症だ。当地は循環器疾患や脳卒中が多い。これらはできるだけ早い治療が大切で、救急体制の整備が急がれる。
時代の流れは機能分化だ。ただ、当地では回復期の病床、在宅診療が不足している現状を踏まえ、急性期から回復期または緩和ケアなど幅広い医療を提供することを目指し、27診療科、320床(急性期204床、地域包括45床、緩和ケア22床、回復期リハビリ45床、感染症4床)を設けた。医師数は66人(研修医を含む)で、私が13年に県立柏原病院に赴任した時の2倍に増えた。救急体制の整備については、1次救急(軽症患者)、2次救急(一般病棟入院患者)、3次救急(重症患者)のうち、2次、3次救急を強化。救急専門医を中心に全科医師による救急への対応を行う。
これまで赤十字病院が担ってきた機能を引き継ぎ、診療所、健診センター、訪問看護などを整備し、新病院を補完する。また、住み慣れた地域で暮らし続けることができるように基幹型地域包括支援センターを新設し、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、ケアマネジャー、社会福祉士、栄養士、介護職などの多職種が連携し、医療から在宅までをカバーする地域包括ケアシステムを構築する。市民の協力も得て、在宅でもさまざまな日常生活のサービスが受けられるようにしていきたい。
これらをサポートするために医療機関、介護施設、薬局などの情報を多職種で共有できる医療介護情報連携システム「ちーたんネット」のサービスも始める。病院近接地には高齢者向け住宅の誘致を図り、効率的な訪問診療を実現させたい。また、開設に合わせ、市民が病院にアクセスしやすいように病院に乗り入れるバス便の増便、系統の新設を行う。
丹波医療センターでは研修医をまず集め、そこから丹波で働く医師を増やしていきたい。そこで研修医の教育が重要になる。県立柏原病院は研修医の臨床能力試験で全国有数の成績を収めており、それに伴い研修医も増えている。柏原病院の総合診療医の育成拠点としての機能も引き継ぐ。そのためにも急性期から回復期までを担い、同じ敷地内にミルネがあることは大きなアドバンテージだ。また、卒業後9年間は兵庫県の指定する病院で働くことが義務付けられている兵庫県養成医のハブ(拠点)として、県で活躍できる医師を増やしていく。恵まれた環境を生かして地域医療の中心的な施設を目指していきたい。
医療機能はここで暮らしていく人々にとって重要なものであり、これが整うことで地域に安心感を与え、また人を呼び込むことができる。併せて子育て支援の充実など、若者から高齢者まで住みやすいまちづくりを進めていきたい。丹波市はおいしい食材がふんだんにあり、住民同士のコミュニティー力が強く、都会に近い田舎としての魅力がある。新病院のオープンをきっかけにこれらをアピールし、企業誘致、農業人材の育成にも注力していく。