病理診断科

概要

患者さんと直接対面することなく、当科では次のような仕事をしています
  • 生検・手術検体の診断(病理組織診断)
  • 細胞診断
  • 術中凍結迅速診断
  • 病理解剖
病理診断科について(病理診断の意味・役割)

一般の方々には、馴染みの薄い科ではありますが、その病理学的診断は医行為であると認められ[平成元年(1989年)]、内科、外科や小児科などと同様に標榜科の一つと認められています。[平成20年(2008年)]
平成28年(2016年)には、がん拠点病院に病理医の配置が義務化され、400床以下の病院に在籍する病理専門医は9割に満たず、非常勤が多いなか、がん拠点病院の一院である当院では平成29年4月に常勤医が在籍することになりました。(因みに病理専門医数は2483名(2018年現在)になります。)
病理診断科がなければ診療が進まないことはありませんが、病理診断科があると次のような利点が生まれます。

病理診断をもとに、一層正確な臨床診断が確定されます。

「証拠に基づく医療」の典型であります。病理医のいない病院では、検体を検査センターなどに提出して病理診断を依頼し、報告書を受け取っていますが、そこでは、臨床医と病理医が連絡をとりあうことは困難で、意思の疎通が充分に行われないこともあり得ます。常勤病理医の役割の一つは、この点にあると言えます。
内視鏡下で、胃や腸の一部を採取し、あるいは皮膚の病変部を一部採取することを生検といいますが、これらの標本を顕微鏡下で観察して診断をします。的確な病変が採取 されなければ、正しい診断はできません。また、乳癌を疑って試験的に採取された小さく細い標本の診断を苦慮する際、画像所見や採取時の印象などを臨床医に尋ねることも大切なことであります。更に生検検体などは報告までの所要日数が、病理医が常駐することにより、断然短縮されます。

手術で採取された検体(臓器)を詳細に検討し、各学会が作成した全国標準の取り扱い規約に沿った診断を行っています。

手術時の診断や肉眼で認めた所見を基本に、必要十分な数の標本を作製して外科系の医師にも分かりやすい記載や図を示して報告書を作成するよう、心がけています。例えば、胃早期癌の内視鏡的切除標本の癌の広がりや浸潤の深さの記載、あるいは、乳がん症例の部分切除時におけるその広がりや、断端との距離の記載などは、報告のかなめと言えます。

  • 早期胃癌早期胃癌
  • 早期胃癌
  • 早期胃癌

手術中に迅速凍結診断が行われ、患者さんに応じた適切な術式が採用されます。

検体を凍結させて短時間に標本を作製して診断報告することにより、過剰あるいは過少な手術が回避されます。病変本体が良性か悪性か、切除された検体と患者さんとの 境目にがんがあるかないか、あるいはがん病巣付近のリンパ節に転移があるかないかなどが、その適用目的となります。またこの際の検体は、通常のルートでも標本が作製されて、最終報告がなされます。本院では、常勤病理医の着任により、その件数も格段に増加しました。

70歳代、女性 腋窩 リンパ節転移の有無(転移あり)
  • 70歳代、女性 腋窩 リンパ節転移の有無(転移あり)通常は油で固めて標本を作製するが、この場合は検体を凍らせて作る
  • 70歳代、女性 腋窩 リンパ節転移の有無(転移あり)

患者さんの心理的な負担や苦痛が軽減される方法で採取された細胞標本の診断を、細胞検査士とともに行っています。

細胞診断と言いますが、ブラシやヘラなどを使い検体を採取して(婦人科検診など)標本を作製します。尿細胞診などとともに、病気のスクリーニングに有用な検査です。また、胸水や腹水など、過剰に体腔に貯留した液を採取して細胞診断をすることもあります。細胞検査士の多大な協力と努力により、それは支えられています。細胞診断結果によって、臨床医は次のステップに進むことも多々あります。

80歳代、女性、胸水 (肺腺癌による癌性胸膜炎)
  • パップ染色パップ染色
  • HE染色HE染色
  • 免疫染色[TTF-1(+)]免疫染色[TTF-1(+)]

病理解剖(剖検)を随時行えます。

病理解剖は、ご遺族のご承諾をいただかなければ実施できません。入院治療の甲斐なくお亡くなりになられた患者さんや、原因も不明なまま、発症後急激に⻤籍に入られた 方々について、病理解剖を行うことにより、死に至った原因や要因を明らかにすることができます。当院でも、最新で万全を期した診療がなされていますが、病態に疑問点を残したままお亡くなりになる方も多くいます。解剖によってすべてが解明されるとは限りませんが、臨床医の予想を越えた病態や病気が明らかになることも多くあります。本院は、臨床研修指定病院として全国から研修の希望があり、医学教育研修の観点からも、地域の皆様に病理解剖のご理解やご協力を賜りたく存じます。

50歳代後半、男性 心筋梗塞左室側壁破裂(解剖にて、新旧2ヵ所の梗塞が見つかる)
  • 50歳代後半、男性 心筋梗塞左室側壁破裂
  • 50歳代後半、男性 心筋梗塞左室側壁破裂
  • 冠状動脈硬化症 高度冠状動脈硬化症 高度

臨床医と病理医との間に症例検討会が開かれ、相互の質の向上に貢献します。

また、医学研究、論文作成や学会・研究会発表の支援をします。一人の医師が育つにも大勢の医療人の関与が不可欠です。この認識の下で、意欲のある研修医ほど、孵化や巣立ちは早いと言えます。身近に病理医が居ることにより、多少ともその役割の一端を担うことも可能となります。

業務量推移

平成29年度 平成30年度 令和1年度 令和2年度 令和3年度 令和4年度
生検手術病理診断 3417 3541 2878 2763 2881 3077
術中凍結迅速診断 59 78 78 96 100 91
細胞診断 5212 5094 5164 6049 6129 6387
病理解剖(剖検) 12 8 8 11 5 3

特色

診断支援装置を中心に充実することに注力しました。患者さんの病態に即した個別化医療で治療薬の選択に資するコンパニオン診断も一部実施可能となります。

  • 1. 病理検査室所属技師・細胞検査士の増員・充実
  • 2. 免疫染色装置の導入
  • 3. 遠隔画像診断装置の更新
  • 4. 液状化検体細胞標本作製装置の導入
  • 5. 病理解剖室や周辺設備等の一新・充実
  • 6. 人体有害毒物対策(病理検査室、病理解剖室)
  • 7. 蛍光顕微装置の導入
  • 8. 組織診断、細胞診断カンファランス装置の更新・充実
  • 9. 血液系遺伝子検査の導入(予定)

担当医師

鷹巣晃昌 S.47年卒
資格:病理医専門医・同研修指導医、細胞診断専門医・同研修指導医、屍体解剖資格
専門:一般外科病理診断
所属学会:日本病理学会、日本臨床細胞学会

協力施設

病理組織診断や細胞診断のご協力をいただいています。

兵庫県立がんセンター病理診断科(佐久間淑子部⻑、梶本和義部⻑)
神戶大学医学部附属病院病理部(代表、伊藤智雄教授)

地域医療に携わる先生方へ

胃・大腸その他の生検など、外部委託されているご施設が多いかと思われますが、その病理組織診断について、疑問点や稀な診断名の場合など、お気軽にご連絡いただけれ ば幸いです。ご一緒に考えられればと思われます。今後とも、よろしくお願いいたします。